電視観望 – 新しい天体観測のかたち

こんにちは!今回のエンサイ・カフェは、新しい天体観測の手法についてのお話です。

近年の技術革新により、「電視観望」という新たな天体観測のジャンルが普及してきています。電視観望では、個人でも以下の写真のように、くっきりとした星雲や星団を、比較的手軽に観察することができます。今日は、そんな電視観望の世界をご紹介したいと思います。

電視観望によるM42 (オリオン大星雲)

電視観望とは?

電視観望とは、望遠鏡に接眼レンズをつける代わりに、CMOSと呼ばれる、微弱な光を感知できるカメラなどを接続し、パソコンやタブレットの画面で天体を楽しむという観測スタイルです。

カメラを使うことで、人間の目の限界を超えて、淡い星雲や星団をリアルタイムで楽しむことができます。また、空が明るくて星が見えにくい都会の空でも、天体観測が楽しめるという特徴があります。

電視観望という言葉は比較的新しく、2016年ごろにアマチュアの天体家によって作られたそうです。漢字違いで、電子観望と書かれる場合もあります。

電視観望のようす

カメラを使うとなぜ見える?

星雲や星団などの淡い天体は、通常、望遠鏡で拡大したとしても、光が弱くて肉眼ではよく見えません。人間の目の時間分解能は50ms程度。つまり、誤解を恐れず雑な言い方をすれば、50msごとに写真を撮りながら、それをパラパラ漫画のように見ることで、私たちは世界を認識しています。一枚一枚の写真には、たった50ms間しか光が入らず、その間に暗い天体から目に入る光の粒(光子)はせいぜい数百個程度しかないため、遥か遠くの星雲の姿をはっきり見ることはできません。

一方、CMOSカメラの時間分解能(露光時間)は人間の目と違って自由に変えることができます。電視観望では、1〜60秒程度の露光時間で、写真を撮ることで、淡い天体を炙り出します。これは先ほどの50msの20〜300倍にあたります。さらに、カメラは人間が認識しずらい星雲の淡い色も捉えることができるため、よりカラフルに天体を見ることができます。

CMOSカメラ これを望遠鏡の覗く部分に取り付ける

ライブスタックという大発明

では、カメラの露光時間を長くすればするほど良いかというと、話はそう簡単ではありません。そこには、大きく二つの弊害があります。この二つの弊害を解決したのが、ライブスタックという画像処理技術です。まずは、この二つの弊害から説明します。

長時間露光の一つめの弊害は星の移動です。星々は、日周運動で24時間かけて空を約一周しますから、望遠鏡を固定して10分経てば、360°÷24÷60×10min = 2.5°も星が動きます。こうなると、星の像はブレて、円弧の軌跡になってしまいます。そのため、従来は日周運動に合わせて、常に星を追尾できるよう、赤道儀と呼ばれる、傾いて自動回転する三脚が必須でした。赤道儀は重い上に、回転軸を正確に北極星に向ける必要があり、調整も大変です。

長時間露光の二つめの弊害は、リアルタイム性が失われることです。単に綺麗な写真を撮るだけが目的なら良いですが、いろんな星に望遠鏡を向けながら、家族や友達とワイワイ星を見たい、というときに、撮影をスタートしてから画像ができあがるまで、毎回10分以上待たなければならないというのは、どうしても楽しさに欠けます。

これらの問題を解決したのが、ライブスタックで、今は無料のPCソフトで、誰でも簡単に使うことができます。

ライブスタックは、1〜60秒程度の比較的短い露光時間で撮影した写真を次々に足し合わせることで、時々刻々と画像を鮮明にしていくという画像処理技術です。このとき、画像内の星のパターンを自動認識することで、写真をずらしながら重ね、星の像が流れることを防ぎます。これにより、赤道儀がなくても、トータルの露光時間を長く稼ぐことができるわけです。

また、画像はリアルタイムで重ねていくので、仮に露光時間を10秒に設定した場合、撮影開始から10秒後には最初の天体像を見ることができます。そのため、10秒後には、「お!写った!」という感動を味わうことができ、20秒、30秒と経つごとに「どんどん鮮明になってきた!」という変化を楽しむことができます。ライブスタックは、自分の好きなタイミングまで続けることができます。

実際には、画角の外まで星が流れてしまうとライブスタックができなくなるので、もっと綺麗に見たい場合は、星を追尾する経緯台や赤道儀を導入することになります。それでも、従来の厳密な調整が不要になるという点は大きなメリットです。

いかがだったでしょうか。電視観望の世界に興味が湧いて、ちょっと望遠鏡とカメラを買ってみようかな…?と思った方もいるのではないでしょうか。私も電視観望を始めてまだ数ヶ月なので、このブログを更新しながら勉強していきたいと思っています。

エンサイ・カフェのRF 星のフロアでは、電視観望で実際に私が撮影した、星雲や星団の写真を展示しています。こちらもぜひご覧ください。

次回は私が使っている天体観測の機材を紹介する予定です。どうぞお楽しみに!

参関参考ページ↓

電視観望の普及


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