経緯台AZ-GTiの分解修理

こんにちは!エンサイカフェへようこそ。

今回の内容は、前回の観測で故障が発覚した、経緯台AZ-GTiの分解修理記録です。

⭐︎分解をされる場合は自己責任でお願いします。

AZ-GTiとは

AZ-GTi

AZ-GTiは、私が半年前から愛用している、Sky-Watcherブランドの経緯台です。

この経緯台は、スマホからの簡単操作で、好きな天体に望遠鏡を向けることができるという優れものです。内部にモータと独立したエンコーダが入っているので、手動で動かしたときも、星の位置を見失いません。

価格は、三脚とセットで約5万7000円です。(2024年現在)

AZ-GTi公式HP

今回の故障箇所

故障箇所

壊れてしまった箇所は、鉛直軸の回転を止める固定ノブです。何度も回しているうちに、空転して固定ができなくなってしまっていました。

ノブを引き抜いたところ

ノブを抜いてみましたが、オネジの方は特に問題なさそうです。おそらく、メネジのねじ山が潰れて、ねじバカになってしまっているものと思われます。

保証書を失くしてしまっていたのと、そもそも内部構造に興味があったので、今回は自分で分解して修理してみることにしました。

せっかくですので、故障した箇所以外についても、内部構造の調査をしてみたいと思います。

分解の様子

まず、底面の4箇所のタッピングビスをプラスドライバーで外します。

次に、裏面のハンドルを外して、矢印の部分の裏側にある2つのタッピングビスを外します。

カバーを外すと、中が見える状態になります。

カバーを外す時は、2本のハーネスが繋がっているため、注意が必要です。コネクタを基板から抜いて、カバーを分離します。

内部は、全体的にコンパクトに美しくまとまっていて、美しい設計です。接着や圧入も見られず、分解・メンテナンス性に優れた作りになっています。

ハーネスは、フラフラしないように基板上で括られています。鉛直軸のエンコーダ(赤1本+白4本)のコネクタだけ抜き、2本のプラスネジを外して基板を取り外します。

基板の裏には、回転角度を検出するエンコーダ機構があります。スリットの入ったディスクと、その回転を検知するフォトセンサが見えます。

また、ギヤとギヤの隙間によるガタ付き(バックラッシュ)を減らすための工夫が入っています。揺動軸を中心に、モータユニット全体がわずかに動く機構になっており、引っ張りバネでウォームギヤを平ギヤに押し付けることで、バックラッシュを無くす構造です。

水平軸の方も鉛直軸とほぼ同じ構成(モータ→ギヤヘッド→ウォームギヤ→平ギヤ→エンコーダ)になっているようです。

次に、中央の4箇所の黒いプラスネジを外し、エンコーダのディスクを取り出します。

問題の箇所が見えてきました。故障箇所の話に入る前に、回転固定の機構について、考察してみたいと思います。

回転軸の固定機構は設計のセンスが問われるところだと思います。

固定方法をゼロベースで考えた時に、まず思いつく構造は、回転部をイモネジ方式で直接押さえつける方法ですが、それには2つのデメリットがあります。一つは、回転軸に横方向の力を加えることになって、ベアリング等に負荷がかかり、軸の精度を悪化させる可能性があることです。二つ目は、イモネジの跡が軸についてしまい、軸がデコボコになってしまって、好きな角度で固定するのが難しくなることです。その際に軸の削カスも出るので、内部の歯車やベアリングに混入するリスクもあります。そのため、経緯台のように何度も軸と動力を固定/解除するような用途には、イモネジ方式は、いまひとつであると考えられます。

一方、AZ-GTiの鉛直軸の回転固定は、固定ノブを回した際に、C型のブレーキリングが締め付けられることで実現されています。この構造は、前述のイモネジのようなデメリットがありません。

C型リングの内側には、大きくC面が取られており、その上に同じく大きくC面が取られたリング状のパーツが配置されています。これによって、固定ノブでC型ブレーキリングが締め上げられた時に、軸方向に力が発生し、軸方向の摩擦力で、動力部に固定される仕組みになっています。

言葉では伝わり切らないと分かっていながらも、一旦記事を公開します。またいつか時間があったら図解を追加します。

さらに、この仕組みであれば、固定ノブを回した時に、対象の回転軸回りに意図せず動く事がないため、ここで止めたい!と思った場所でピタッと止める事ができます。

理にかなった良い設計だと感じました。

さて、本題に戻りますが、そのC型ブレーキリングの一端に、今回壊れてしまったメネジ部があります。

よくみると、何やらバネのようなものが飛び出しています。これは……いわゆる「ヘリサート」です。母材に下穴を開けてタップを切り、そこにこのバネ状の部品を入れることで、ひとまわり小さなネジができる、というものです。

C型のブレーキリングは、アルミか亜鉛製で柔らかく、直接メネジを切ってしまうと、すぐにねじ山が潰れてしまいます。ステンレス製のヘリサートを採用することで、メネジの強度を上げていると考えられます。

故障箇所の修理

てっきり、メネジが潰れたせいで固定ネジが空転するようになったと思っていましたが、実際には、ヘリサートが飛び出てしまってメネジがなくなってしまったことが、今回の原因でした。

さらに分解を進め、ヘリサートを摘出しました。

取り出したヘリサート

AZ-GTiでは、貫通穴に入れられていますが、ヘリサートは、止まり穴に使うのが一般的です。貫通穴にヘリサートを使うと、繰り返しネジを締めた時に、少しずつ奥に押し出されてしまいます。まさに今回の故障モードはそれだと思います。

これについては、おそらく設計者の妥協箇所なのではないかと予想しています。元々は直接C型ブレーキリングにメネジを切るつもりだったけど、ネジ強度が足りなくて、やむを得ずヘリサートを採用した、など、事情があったのかもしれません。

根本対策にはなりませんが、今回は、このヘリサート新しいものに交換する事で、修理をすることにしました。

ヘリサートキットはAmazonで2000円くらいで手に入ります。

ヘリサートキット

図中紫色の専用工具を使って、タングが外側に来るように、C型ブレーキリングの内側からヘリサートをねじ込みます。

ヘリサートを入れたところ
組み込んだところ

ハーネスを綺麗にまとめながら、分解した逆の手順でケースインして、修理完了です。無事新品同様の動作をするようになりました!

まとめ

AZ-GTiの垂直軸固定部の修理を行いました。原因はヘリサートの脱落で、ヘリサートの交換によって、元の状態に戻す事ができました。

ただ、根本対策はできていないので、また使っているうちに同じモードで故障する可能性はあります。良い方法が思いついたら、恒久対策をしたいと思います。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。次回もお楽しみに。