江戸時代の反射望遠鏡

こんにちは!今日のエンサイ・カフェは、東洋のエジソンとも呼ばれる「国友一貫斎(くにとも いっかんさい)」と、望遠鏡についてのお話です。

つい先日、滋賀県の「国友鉄砲ミュージアム」に行ってきました。

国友鉄砲ミュージアムは、江戸時代に種子島に伝わった火縄銃を、その翌年から国内製造していた、国友という地域(現在の長浜市国友町)にあります。

当時飛行機や電車などの交通手段もない中、長崎から素早く鉄砲のサンプルが伝わっていたのも驚きですが、伝来の翌年にはその製造を行っていたわけですから、現在のスタートアップ企業と比べても驚きの開発の速さです。優秀な職人・技術者が多く集まった地域だったことが分かります。

さて、この博物館の展示のメインはもちろん火縄銃なのですが、その隣に、「国友一貫斎」の貴重な資料も展示されていました。

国友一貫斎は、鉄砲鍛冶士の家系に生まれた、非常に優秀な鉄砲鍛冶士兼、科学者・発明家です。海外から、最先端のさまざまな科学技術を取り入れたことから、「東洋のエジソン」「日本のものづくりの先人」などの異名があります。

一貫斎が生まれたのは1778年。国友での鉄砲製造開始は1544年ですから、その間に200年以上の月日が流れています。この頃には、火縄銃は技術的にほぼ成熟し、大きな戦もない江戸時代だったということもあり、性能よりも装飾を工夫する時代に移っていたようです。一貫斎は、松平定信から命を受けて、日本で初めて鉄砲製造の教科書として「大小御鉄炮張立製作」をまとめ上げ、その後、鉄砲以外のさまざまな発明を残しました。

一貫斎の望遠鏡(複製品)。実物も4台現存する。

その一つが、日本初の反射望遠鏡です。

望遠鏡には主に「屈折望遠鏡(レンズで拡大)」と「反射望遠鏡(鏡で拡大)」の二つがあります。屈折式はシンプルで扱いやすいため、子ども用やホビー用にも多く採用されています。一方、反射望遠鏡は、筒の中で光を折り返す分、比較的短い長さで作ることができます。また、口径を大きくしやすいので、明るい像が得られます。他にも、色収差(色による屈折率の違いで、像の輪郭に色がついてしまうこと)が出ないといったメリットがあります

一貫斎が作ったのはグレゴリー式と呼ばれる反射望遠鏡の一種です。

グレゴリー式望遠鏡は、凹面鏡を二つ使った構造をしています。身近なところだと、凹面鏡はメイクをする時に顔を拡大する用途などで使われていますが、星を拡大する原理も基本的にはそれと同じです。

グレゴリー式は、他の望遠鏡と違って、覗いた時に星の向きが反転せず、直感的に使いやすいことが特徴です。一方で、光軸合わせ(星から来た光が、目にまっすぐ届くようにする調整)や鏡の加工が大変というデメリットがあります。そのため、現在は凹面鏡を1枚だけ使った、ニュートン式の反射望遠鏡が普及しています。ちなみに、星雲の名前のM42などの「M」に名を残す、天文学者メシエは、グレゴリー式を愛用していたようです。


グレゴリー式の制作で技術的に難しいところは、鏡面の加工です。真ん中に穴が空いた主鏡の凹面鏡は放物面、副鏡の凹面鏡は楕円面であり、どちらも非球面ですから、加工に技術が必要です。一貫斎もこの鏡の作成には苦労したようですが、こういう難しいところが、逆に技術者心に火をつけたのかなと想像しています。すごく楽しそうです。

背景にニュートン式の図があるが、この望遠鏡はグレゴリー式

一貫斎の望遠鏡は、グレゴリー式というだけでも興味深いですが、ほぼ完全金属(おそらく真鍮)製という点も、アンティーク調で非常におしゃれだと思いました。今の望遠鏡はコスト的に、一部プラスチックを使ったものがほとんどですし、金属部も塗装する場合が多いです。

最後に、技術的な話とは逸れますが、一貫斎は天保の大飢饉の際に、この望遠鏡を各地の大名に売って、そのお金で村人を助けていたそうです。元は鉄砲製造で培われた金属加工技術ですが、自然科学の発展や人々の暮らしの助けになっていたというところが素敵だなと思いました。

たまたま立ち寄った博物館でしたが、日本の望遠鏡の歴史に触れることができ、とても面白かったです。国友鉄砲ミュージアムには、今回ご紹介した内容だけでなく、数多くの火縄銃の展示があります。滋賀に行かれる際には、是非立ち寄ってみてください!

今日のエンサイ・カフェはここまで。

次回もお楽しみに!

関連リンク↓

国友鉄砲ミュージアム:https://kunitomo-teppo.jp/


コメント

“江戸時代の反射望遠鏡” への1件のコメント

  1. […] この望遠鏡は、シュミットカセグレン式という、反射望遠鏡の一種です。以前紹介した、グレゴリー式に似ていますが、違いは前面に薄い補正レンズが入っている点です。これで入射光を補正することにより、主鏡と副鏡をどちらも球面鏡にすることができ、量産性が上がっています。ちなみにグレゴリー式は、研磨が大変な放物面および楕円面の鏡が必要でした。こういう技術的な背景も望遠鏡を楽しむ一つのポイントだと思っています。 […]

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